歯がぐらぐらする。どうしたら良いか?

突然気づいたら歯がぐらぐらしていた。歯磨きも食事も怖くてできないので、困ってしまいます。今回は歯がぐらぐらになってしまう理由とその対処法について説明いたします。

 

 

 

まず、歯の構造を考えてみましょう。

健康な歯はどのようにして歯茎に固定されているのか説明します。

歯には見える部分(歯冠)と見えない部分(歯根)があります。

歯根の状態によって歯の動揺度(ぐらつく程度)が変わります。歯根を支えている部分は歯周組織と総称されます。歯周組織は以下の部分で構成されます。

 

・歯肉

いわゆる「歯茎」。歯周組織の粘膜部分。歯肉と歯根は上部では剥がれており、歯周ポケット(歯肉溝)という隙間がある。

・歯槽骨

歯肉の内部の骨。歯根を包み込むような形で顎の骨(顎骨)と一体化している。

・歯根膜

歯根と歯槽骨をつなぐ組織。歯周靱帯(ししゅうじんたい)ともよばれる。歯根膜のクッション作用により健全な歯根はわずかに(約0.2mm)動揺している(生理的動揺という)。

・セメント質

歯根の最外層を覆う硬組織で、その存在により歯根膜を歯根と結合させることができる。

 

これらの歯周組織が健全な状態で歯根を支えているので、食事したり、歯ブラシを当てても歯はぐらぐらしないのです。

 

 

 

 

それでは歯がぐらぐらしてしまうのはなぜでしょう?

ほとんど場合は前述の歯周組織の変化やトラブルが原因であると考えてよいでしょう。

 

 

 

1 乳歯の生え変わり

乳歯と永久歯の交換(生え変わり)は6歳から13歳ころまで自然に行われます。交換の際には歯肉の内部で永久歯の歯冠が乳歯の歯根を押し出すような動きをしますが、乳歯の歯根は吸収していき(溶けていくこと)、脱落直前には短くなってしまいます。

歯周組織に埋まっている歯根自体が短くなってしまうため、乳歯はぐらつきます。

<治療>

通常自然脱落しますが、何か月もぐらつく状態で乳歯が抜けない場合は、歯周組織や後継永久歯・咬み合わせ、顎の成長などに悪影響を及ぼすため、抜歯します。

 

 

 

2 歯周組織の炎症

以下は、歯周組織の細菌感染によるものです。

①辺縁性歯周炎(急性期・慢性期がある)

いわゆる歯周病や歯槽膿漏のこと。歯周ポケット内に蓄積した歯石や歯垢(歯周病菌)の作用で歯の周り(辺縁)の歯肉の炎症が引き起こされる。

急性期は歯根膜が腫れるため、歯が浮いたような痛みと歯のぐらつきが生じる。

慢性期には歯槽骨が十分に残存していればぐらぐらすることはないが、慢性期であっても中等度以上の進行で歯槽骨が吸収(溶けていること)してしまうと支持組織として不十分であり、ぐらぐらしてしまう。

<治療>

歯周病の治療によりぐらつきが止まることを目指すが、歯槽骨の吸収度によっては抜歯するしかないこともある。

 

 

②根尖性歯周炎(急性期・慢性期がある)

歯科医院では「根の病気」、「根が化膿している」、「根の先に膿がたまっている」、「神経や根が腐っている・死んでいる」という説明がなされることが多い。歯根内部に蓄積した細菌の作用により歯根の先(根尖)に炎症が引き起こされ、同部の歯槽骨が吸収してしまう。

急性期は強い痛みと腫れが引き起こされるが慢性期は無症状であることも多い。歯槽骨の吸収が広範囲に及ばないうちは、ぐらつきの程度も弱いことが多い。

<治療>

根管治療(根の治療)を検討するが、難治性の根尖性歯周炎や歯根破折(後述)が併発している可能性も少なくないので治療介入のメリット・デメリットについて慎重に判断する必要がある。

 

 

 

 

以下は、必ずしも歯周組織の細菌感染が伴わないものです。

③歯根破折

歯根が折れていること。「歯が割れている」、「ひびが入っている」とも説明される。歯の支えとなる歯根自体が割れてしまうためにぐらぐらする。すでに神経を失っている歯の歯根で発生しやすい。根尖性歯周炎と合併していることも多い。

 

<治療>

基本的に抜歯となる。ひびははいっているものの、無症状である場合は経過観察とする場合もある。

※歯根の接着修復については現在のところ、十分な根拠と実績のもとに確立された治療法とはいえない。

 

 

 

④咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)

咬み合わせの様式や習癖によって、過剰な負担を負った歯根は歯槽骨内でのおさまりがゆるくなってしまい、ぐらぐらする。初期はレントゲンにより歯根膜の拡大がみられるがぐらぐらすることは少ない。過剰な負担が継続することで、徐々に歯槽骨も吸収していき辺縁性歯周炎と合併することでぐらぐらし始める。

 

<治療>

初期のうちであれば、過剰負担となっている歯の咬み合わせを調整する。歯槽骨の吸収を伴う場合は辺縁性歯周炎の治療も必要となる。治療後にぐらつきが残る場合は周囲の歯との連結固定を行う。

 

 

 

3 外的な要因

 

①外傷(歯の打撲)

転倒や事故などにより瞬間的に強い力をうけた歯は歯槽骨内でゆるむので(亜脱臼)、ぐらぐらしてしまいます。時には、抜けおちてしまったり(脱臼)や歯槽骨の骨折、歯根の破折を併発してしまうこともあります。

 

<治療>

亜脱臼の場合、経過観察とするか一時的に固定するかぐらつきの程度で判断します。脱臼や歯槽骨骨折、歯根破折の合併の場合は受傷時の状況や受診までの経過時間などにより判断します。

 

 

 

②矯正治療

歯列矯正治療では、歯冠に矯正装置が装着されていますが歯冠と歯根はつながっていますので、もちろん歯根も移動させる力が働きます。ただし、治療中は矯正装置やワイヤーで連結されているので、ぐらぐらしているという自覚症状をかんじることは少ないのでしょう。矯正治療後に十分な時間がたてばぐらつきは止まってきます。

 

 

 

4 歯根自体はぐらぐらしていないものの、歯がぐらぐらしている場合

 

①差し歯の脱離

いわゆる「差し歯」は人工歯が歯根にセメントで装着されています。セメントの経年劣化、歯根の虫歯、歯根破折などにより差し歯が抜けかかっている場合、歯がぐらぐらしているように自覚します。

<治療>

差し歯や歯根の状況により総合的に判断します。再装着できる場合もあれば、抜歯となってしまう場合もあります。

 

 

 

②歯冠破折

歯冠が割れたものの、何らかの理由で割れた破折片が外れずにぐらぐらしていることがあります。

 

<治療>

歯冠の破折片を除去後の歯の状態により判断します。

 

 

 

歯がぐらぐらしていることに気づいたら、、

 

もちろん、ぐらぐらする原因をつきとめてすぐに治療開始することが理想ですので、早めに歯科医院を受診する必要があります。

 

 

 

 

受診日までに、患者様ご自身でできることは、

・ぐらぐらする歯の周囲の歯茎を優しく、ゆっくり、時間をかけて丁寧にみがいて歯垢を落とす。

・できるだけ、指で動かしたり、舌で触れたりしないようにする。

・食事の際にはできるだけ使わないようにして、ぐらぐらしていない歯でゆっくりと咀嚼する。

 

などがございます。受診日までお気をつけてお過ごしくださいませ。